Q太郎の『いぎなり怒らった』

~しみわたる一杯の水~

ふしぎなお客さんの反応(2)~しずかな「クマ」もにぎわいのうち~

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そんなことで立ちはじめたお店は
こあがり席が三つ(座卓×3)
椅子席が一つ
あとはカウンターが5席ぐらいの小さな空間で、お客さんのようすはよくわかったし、食事の進みぐあいを見ながら料理を出したりした
カウンターのばあい対面だからお客さんとの距離はなお近い

カウンターにすわるお客さんは常連さんたちが多い
そういう人たちはまさに夜遊びの達人という感じがする
お客さんどうしも顔なじみになっているが一番の顔なじみはなんと言っても親方だった
そしてもちろんそういったふれあいも料理の一部になっている

そうかと思えば毎回ただ黙々と飲んで帰る人もいる
その人はなんとなく動きものっそりとして幅広な風貌(ふうぼう)をしていた
そしてほぼ毎回焼き魚の鮭を注文するのでホールのお姉さんたちからは「クマ」とひそかにあだ名されていた
そして「ねぇねぇ、今日クマがねぇ・・・」などと時おり私たちの話題にのぼった

私たちはその「クマ」という呼び名にどこか親しみをおぼえ、言葉少ななそのおじさんが来ると心の中で
(ああ、クマがきたな…)
と思いながら彼をむかえた

親方の方もやはり彼に対しては、あえて余計なことは言わないが、おあいそのときはやはりなんとなくほかのお客さんに対してするよりも
「ありがとうございました!」
という声に力が入っている感じがした
お客さんの方も必ず
「ごちそうさま」
と一言いって帰っていった

ボソッと言うその一言を親方は忙しいときでも絶対聞き逃さなかったし、自分もそれを聞き逃さずに
「ありがとうございましたっ!」
と返すことに関しては他の人に負けない自信があった
「クマ」さんもやはり大切なお客さんの一人だったし、そんな静かな「クマ」も賑わいのうちだった


それで当時を思い出しても

「あれはふしぎだったなぁ…」

としみじみと振り返ることがあるのがお客さんの反応のことだ

(つづく)