Q太郎の『いぎなり怒らった』

~しみわたる一杯の水~

皿洗いが毎日つらくて仕方がない人たちへ(2)~”マインドフルネス”がもたらす魔法~

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彼らに共通するのは、決して皿洗いをイヤイヤやっているわけではないということだ
 
小林弘幸氏は自律神経の専門家として、もはや日本ではもっとも有名になってしまった一人だろう

メディアは自律神経に関してなにか番組などで取り上げようとした場合、まずこの人に聞け、と考えているようだ(つまり、そのぐらいメディア露出がはげしい)

 

自律神経を整える 「あきらめる」健康法 (角川oneテーマ21)

(小林弘幸氏と著書)


彼がすすめる皿洗いのやり方は次のようなものだ
 

気持ちを込めて一枚一枚洗いましょう。そんな自分自身の存在や、シャボンや水の手触りも楽しみましょう。そして「きれいになっていくのは、気持ちいいなあ」と実感して下さい(自律神経が整えば休まなくても絶好調 (ベスト新書)2017年)

 


ちなみに小林氏は著書の中である実験の結果を紹介している
その実験の趣旨は一言でいえば


マインドフルネスを皿洗いに応用したら、人間の感情にどんな影響があるか


を調べようとしたもの


2015年にこの実験を行ったのはアダム・w・ハンリー氏らフロリダ州立大学の研究グループ

もともと医師ではなくマインドフルネスの研究者らしい

 

これによると、やり方によっては皿洗いがストレスを軽減に効果がみられたというのだ
 

【マインドフルネスとは?】
マインドフルネスはここ数年、グッと注目度を増しているようにみえる
これもいちおう一言で説明すれば、ようするに「瞑想(めいそう)」のことだ

高校球児が「平常心」を鍛えるために座禅(ざぜん)に取り組んだという話はよく聞くが、これも瞑想の一種と言える
「瞑想」と聞くとなにかお坊さんが修行のときにやるイメージや、宗教的な色合いも感じられるかもしれない

ここから一切の宗教色をのぞいたものがマインドフルネスと呼ばれている

 

このマインドフルネスに対して、「宿命のライバル」ともいうべき存在がある

それは「キラーストレス」だ

人間の心と体を猛烈な勢いでむしばむ「悪の元凶」といえるだろう

(たとえるなら「ハリーポッター」に対する「ヴォルデモート【闇の帝王】」、「ジェダイの騎士」に対する「ダークサイド」のようなものだ)

 

たとえ小さなストレスであっても、それがいくつも重なると命にかかわる病気を引き起こすということが科学の進歩によってわかってきている

 

マインドフルネスはこれに対抗する有効な手段としても注目されてきた

 

ではどんな風に皿洗いをすればよいのか。

 

一言でいえば「今、ここに集中する」ということに尽きる

 

たとえば、ブツブツ言いながら皿を洗っている女性がいる

 

「このあと子供を風呂に入れなくちゃいけないし、あすは会社に早くいかなくちゃあいけないから忙しい、早く皿を洗ってしまわなきゃ」

 

もしくは子供に向かってこんなことを言いながらーー

「宿題やったの⁈ 寝る準備しなさい!ああ、今日は仕事で疲れたからお茶でも飲んで早くゆっくりしたいのにー・・・!」

 

筆者は毎日目にするのも筆者に限ったことであるまい

 

これに対して、マインドフルネス的な皿洗いはちょっと違っている

 

つまり「今」、「ここ」で皿を洗っている自分、皿や水の手ざわり、温度、洗剤の香りやシンクに立っているという感覚、皿を置く音、台所の明るさや暗さ、自分のしている呼吸、etc…

今感じているそれらのことに意識を集中させる、ということだ

 

また浮かんできた考え、思考にも意識を向ける

自分が今、何を考えているのか、どんな考えが浮かんできたか、そのような自身のマインドの働きに対して自覚的であるということ、意識を向けることである

 

そうして(小林氏が言うように)今自分が皿洗いをしていることをゆっくりと味わうのである

 

そんなふうにして皿洗いをしたグループはそうでないグループに比べ、皿洗いをした後にはイライラした気持ちが落ち着いてくるという実験結果が出たのだ

*1


そして前述した小林氏がすすめている皿洗いの心得というのも、この研究をふまえたものだ

 

 

しかし、これは考えてみれば当たり前の結果だ

 

「あれもしなきゃ、これもしなきゃ、早く休みたい、」

 

そういったことばかり考えてやる皿洗いが楽しいとも思えない

 

所さんの話を聞いてもやはりこのことがわかる

 

”食器を洗うのでも、タイムを計りながらやってみる。お皿10枚を今日は1分20秒で洗った。昨日より5秒も縮めた。明日はあと2秒縮めて記録を作ってやろう”

(「いいこと「が起こる人、「悪いこと」が続く人 2017年 10 月号 [雑誌]: PHP 増刊*1

 

いろいろ考えているようでいて皿を洗うことに集中している

 

ところでこの研究結果が発表されたことによって"マインドフルネス的な皿洗い"というのが2015年ごろから注目を集めたわけだが実は論文を読んでみると、じつは元ネタとなっている本がある

40年ほど前に出版された禅宗の僧侶の本だ

 

彼の名はティク・ナット・ハン

日本でも多数の著作が翻訳・出版されている著名なお坊さんだ

知る人ぞ知るマインドフルネスの立て役者とも言われる

 

アダム・w・ハンリー氏らによって”皿洗いがストレスを軽減する”という実験結果が出されたということは海外のニュースサイトでも何度も取り上げられ一時注目を浴びたようだが

本当にすごいのはマインドフルネスだ

実験においてハンリー氏が参考にしたのはティク・ナット・ハン氏の著書”The Miracle of Mindfulness”(気づきの奇跡)

 

この本の一節に皿洗いについて書かれた部分があり、実験の参加者はこのやり方で皿を洗うよう促されていたのだ*2

 

このハン氏の著書、最初に出版されたのは1975年

 

もうずいぶんな年月が経っている

 

ベトナム戦争という悲しい歴史を体験した彼は、マインドフルネスが世界に平和を広める手段だと信じ欧米でそれを実践していった

 

The Miracle of Mindfulness”は、彼がベトナム戦争のさなか、友人のために書いた「瞑想の手引き」書だ

 

この本はその後なんども邦訳され、そのほかにも数多くの彼の著書が日本にも紹介されている

 

それだけ現代的にも意味を持つ内容が書かれているということも言えるし、またマインドフルネスへの注目が高まってもいる

 

近ごろではGoogle社でやはりマインドフルネスをテーマに講演を行ったことでも注目された

 

しかし、本をただせば紹介されているのはブッダの瞑想法だ

基本的には仏教の経典に沿って瞑想のやり方が紹介されている

一般にもわかりやすい形で書かれた優れた指南書になっているために、こうして今なお大切にされていると見える(ちなみに私が行く図書館では今日もこの本の邦訳は貸し出し中になっていた)

 

 

ーーさてビル・ゲイツ氏が皿を洗うときに(おそらく今日も自分で洗ったかもしれない)マインドフルネスを意識してやっていたか、それとも別な考えでやったかは計りしれないが

 

ふしぎと様々な方面のひとかどの人物が皿洗いについてコメントしているということが面白い

 

所ジョージ氏はこうも言っている

 

”同じやるのなら楽しんだ方が勝ち。要は、楽しいものが最初から存在するわけではない。いかに楽しく工夫するか。いかに楽しさを引き出すか。それに尽きると思う。”(「いいこと「が起こる人、「悪いこと」が続く人 2017年 10 月号 [雑誌]: PHP 増刊

 

角度はちがうが同じことを言っているようにも見える

 

 「面白き ことともなき世を 面白く」

 

維新の志士の辞世の句が思い出される

 

 

皿洗いが毎日つらくて仕方がない人たちへ ~皿を洗えばイライラが解消する?(1)

*1:ハンリー氏らの研究によると、「マインドフルネス的」な皿洗いには「いらだち」の感情を軽減する効果があるという結果が出た。ただしこの研究はたった51人の学生を対象にしたものにすぎない。研究としてはさらなる検証を必要とすることは言うまでもない。しかしすでにマインドフルネスがストレスに対して有効であることについては明らかにされつつある

*2:

While washing the dishes one should only be washing the dishes. This means that while washing the dishes one should be completely aware of the fact that one is washing the dishes. At first glance, that might seem a little silly. Why put so much stress on a simple thing?But that’s precisely the point. The fact that I am standing there and washing is a wondrous reality. I’m being completely myself, following my breath, conscious of my presence, and conscious of my thoughts and actions.There’s no way I can be tossed around mindlessly like a bottle slapped here and there on the waves.If while washing dishes, we think only of what we would rather do, hurrying to finish the dishes as if they were a nuisance, then we are not “washing the dishes to wash the dishes.” What’s more, we are not alive during the time we are washing the dishes. In fact we are completely incapable of realizing the miracle of life while standing at the sink. If we can’t wash the dishes,the chances are we won’t be able to drink our tea either.While drinking the cup of tea, we will only be thinking of other things, barely aware of the cup in our hands.Thus we are sucked away into the future—and we are incapable of actually living one minute of life

Washing Dishes to Wash the Dishes: Brief... (PDF Download Available). Available from: https://www.researchgate.net/publication/281608722_Washing_Dishes_to_Wash_the_Dishes_Brief_Instruction_in_an_Informal_Mindfulness_Practice?enrichId=rgreq-ac2462657178547f1338145a5e115fea-XXX&enrichSource=Y292ZXJQYWdlOzI4MTYwODcyMjtBUzoyNzI1Mjk5NTI2MDQxNjFAMTQ0MTk4NzYxMjQ0OQ%3D%3D&el=1_x_2&_esc=publicationCoverPdf [accessed May 19 2018].